僕がナムコ在籍時、ある自分が立ち上げた技術研究プロジェクトが、そこそこ動いてデモが出来る状態になった後、所属部署の偉い人に見てもらう機会がありました。
デモを作ったものは、インターネットに接続するある機械(ゲームではないがエンタテインメント的なものの試作)で、その偉い人の受けもよく、さらに上の人にも見せよう、という事になりました。
その偉い人(現バンダイナムコホールディングス社長の石川さんなんですが)も、中々気に入ったようで、当時のナムコの役員にも是非見てもらおうという事になりました。
当時の社内では、単なる技術研究が役員クラスまで見てもらえる事は殆どなく、僕は非常にうかれていました。
当然、製品化したいという気持ちはありましたし、これはいけるのではないか、そう思っていました。
役員の方々の反応も上々で、「これは社長に見せましょう」となりました。
つまり、まだ技術検証段階の試作品をナムコ創業者の中村雅哉社長(当時)に見せるという事になった訳で、僕はその時は(今までの反応から)、よい反応が得られるに違いない、と思い込んでいました。
スケジュールがなかなか合わなかったのですが、いよいよその日が来ました。
僕は一通りプレゼンをして、中村雅哉さんにも触ってもらおうとしました。
しかし…中村雅哉さんは、触るよりも前にダメな理由をいくつか挙げてこういいました。
「こんなのは、君のマスターベーションみたいなもんだよ。」
突っ込まれたのは、今までにない機械だったので、どこにどう設置して、収益のあげ方をどうするのか、というような事を言われていたような気がします。
「気がします」というのは実の所、色々ショックすぎて、前後に言われた事をあまり覚えていないからです。
後で、上司から「きっと社長も虫の居所が悪かったんじゃないか」と言われました。
しかし、あまりにも悔しすぎて、その後会社で号泣した事を覚えています。
しばらく、何も手につかない日々が続きました。
不思議に思われるかもしれませんが、僕はあの時、中村雅哉さんにあのような言い方をされた事を本当に感謝しています。
特に、技術者出身だった僕は、「開発者のマスターベーション」になってしまうモノを作りがちだったのかもしれません。言われた当時はショッキングな言葉でしたが、今になってみると、あの時中村雅哉さんが言いたかった事が分かる気がしています。
その後、何か新しい事をやろう、と思った時も「これは開発者のマスターベーション」になっていないか、という事を自分に問いかけるようになりました。
商品企画・開発をする上で、自分たちだけが面白い、と思うものを作ってしまわないようにする事は簡単にできそうで、実は難しいのです。
僕が、プロデューサーとして、お客様の立場にたって、あるいは小売店や流通、プラットフォームメーカーの立場にたって考えなければいけないと思い、実際にそのように行動が出来ているのは、「あの一喝」のおかげだと本当に思っています。
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